98年度ダイナスティカップは中国・香港・韓国を招いての総当たり戦だった。 世間ではＷ杯に向けて日本代表人気が沸騰し、チケット獲得は至難の技だったが どうにか友達と協力し合って入手でき、前回のオフ会メンバーを中心に観戦オフ会も企画した。

そして初戦を明日に控えた2月28日の夜、友達から電話があった。 友達3人、すでに新横浜の横浜国際総合競技場（以下、横国）で並んでいるというのだ。 その夜はかなり暖かかったし、友達も初めての代表試合観戦を前にハイテンションになっているようだ。私は翌朝合流する約束をして寝た。ところが明け方寒さに目が覚め窓を開けてみると、みぞれ混じりの雪が降っているじゃないか！！ 慌てて家を出て新横浜にたどり着く頃には、みぞれは完全に雪に変わっていた。 みんな一応屋根のある場所に並んではいたが、コンビニで調達したダンボールを敷いても 足先は凍るように寒く、風は吹き付けるし、碌な防寒具も持っていなかった友達の唇は青くなっている。そのうち列の整理の係員がやってきて、非情にも、私達は屋根すらない場所に移動させられたのだ。 傘をさしても風が強くて役に立たない。身を切られる寒さだ。空とスタッフを恨みながら、 じっと開幕までの長い時間を耐えた。雪が雨に変わり全身ずぶぬれになってしまったが、 次第に気温が上がったことが救いだった。サポーターってやつも大変だ・・・。

ようやく開場すると、あえて屋根の下は選ばずにホーム側ゴール裏の１階席最前列に席を取った。 ホーム側ゴール裏とは、サッカーの試合で一番応援が盛りあがっているところ。私達も初めて多勢揃っての観戦だったため気合が入っていたのだ。 横国は当時完成したばかりの新しい建物で、その柿落としがこの日（3月1日）の韓国戦。 「城で勝つ！」という見出しが一面に踊る当日のスポーツ新聞を回し読みし、 青々としたピッチの上でプレーする城を想像して気分が高揚してきた。 やがて観客で埋ったスタジアムから沸き起こる声援。その迫力と、紙ふぶきが舞う光景に鳥肌が立った。始めは声を出して応援に参加することを躊躇っていたのだが、思いきって声を出してみた。腹の底から大声を出すのはストレス解消にも役立つと言われているし、応援に燃えていると雨なんて少しも気にならない。 以前国立でW杯一次予選を見たときは友達の縁で対戦国応援団の一員だったため、本当の意味で日本代表の サポーターとして応援したのはこれが初めてだった。サッカーファンとしては未熟な自分だったが、 サポーターの一人として誇りすら感じてしまう。一人のリーダーに扇動されるのが性に合わないけれど、群集心理の影響力を身をもって経験した。臨場感と連帯感。TVで見ているだけでは決して分からないものだった。

試合はゴン中山のゴールで日本が先制したものの、同点に追い付かれてしまった。 城はこの日、スタメンで入っていた。サブ扱いだった最終予選に比べて 2月のオーストラリア合宿では城の起用場面が増えていたので、ダイナスティカップでの 活躍次第でレギュラーの座も近いと感じていたし、「W杯のピッチで君が代を聞く （＝スタメンで試合に出る）」という城の目標を叶えて欲しいだけに、 ファンにとって「城のゴール」は本当に切実な願いだった。 けれど試合は終了時間が迫り、城もゴールできないままで、今日は引き分けかなぁ・・・と 内心諦めていた。 そのとき、城が韓国選手のラフプレーを受けてうずくまった。 ファウルは取られなかったし、遠目で何が起きたのか分からなかった。 その1,2分後だ。 名波からのCKに城が頭で合わせてゴール！ 初めて生で見た城のゴール！目の前で見せられた、鮮やかなヘディングシュート！ 何がなんだか訳わからなくなりながら、回りと抱き合って泣いて喜んだ。 それが決勝点となり日本は逆転勝ち。もちろんヒーローインタビューは城だ。 電光掲示板に大きく映し出された城の顔は、心なしか丸く膨れていた。貴重な逆転ゴールを決めた城に胸が熱くなっていく。夢中で城彰二コールをした。 最高にかっこいい〜！！

試合後うきうき楽しい気分で家に帰ると さっそくスポーツニュースのはしご。その時初めて知ったのだが、ラフプレーを 受けた時城は歯を2本折られていたというのだ。どうりで顔が腫れていたはず。 そんな酷いラフプレーだったのに 審判はカードどころかファウルすら取らなかったことがショックだ。 「柳相鉄（ユ・サンチョル）！！あんたの名前だけは一生忘れない！許さん！！」と 皆で激怒したが、その時の選手が横浜Fマリノスで城の良きパートナーと なっているのだから、不思議。 でも、怪我をしながらも直後にゴールを決めた城の精神力にまたまた惚れてしまった。 翌日のスポーツ新聞一面は「城で勝った！」だった。

それから4日の香港戦（横国）で城はスタメンだったがカズと後半途中交代。中田英寿（ヒデ）の大活躍で 日本は香港に圧勝した。城はゴールこそなかったけれど、楽しそうにプレーしているから見ているこちらも 楽しくなる。 7日の中国戦（国立競技場）ではカズに変わって後半途中出場だった。 しかし、この日は中国に完敗。W杯に向けて課題が見えてきた試合だった。 私は城ファンの友達と大勢で観戦するようになり、「１８」番のＴシャツや ユニフォームばかりがずらりと並ぶ様子は壮観だった。